
今回のシンポジウムで、一番注目が集まったのは杉山教授のご講演。
自然栽培のテーマに「科学」というキーワードが入ったのは、これまでにない企画です。
杉山教授は、ご専門の植物生態学から見た、自然栽培の概要がどのようなものなのかを、豊富な資料と共にお話くださいました。紹介されたパワーポイントの資料は、著書にも載っていない貴重なものもありました。ご来場になった方はラッキーでしたね!


教授は、リンゴの木はもちろんのこと、木村さんのリンゴ園に生息するありとあらゆるものをサンプル調査しています。ご覧の上の画像は、リンゴの葉から抽出した内生菌(=エンドファイト)を調べたものです。円グラフをパッと見ただけでもわかるように、多様な内生菌群集がいることがわかります。ただの一枚の葉っぱでも、どのような環境で育ったかによってこんなに違いが出るものなのですね。

こちらは土壌から抽出された微生物量について。木村さんの圃場と慣行圃場との比較です。
窒素を固定する働きのある、真菌や放線菌が多いことがわかります。(上段)その結果、微生物窒素量が慣行圃場の倍近くになっていることが右下グラフからわかります。
ほかにも、昆虫の群集構造調査や、天敵となる昆虫の生態、天敵を呼び寄せる植物のしたたかな防御術なども写真と共に披露され、自然界にあるものだけで植物の生育が可能となっている様子に、農家はもとより、農の専門集団ともいえるJA関係者が真剣に見入っている姿がとにかく印象的でした。
間違えてはいけないのは、自然栽培に取り組めば、すべての圃場が上記のようになるとは限らないということ。
これは、圃場の個性と、木村さんが手と足と目と頭と心を駆使した圃場への働きかけが掛け算となって、長年の蓄積によって生まれた結果なのです。この結果を、見る人によっては「奇跡」と評し、ある人は「木村さんの努力が引き寄せた必然」と評しているのです。そこには「奇跡」も「必然」もあり、「事実」があるだけです。
このことは、圃場に働きかける人間の個性によって、いくつもの結果が生まれてくるということを示しています。私たちが原理を集約できず「答え」を簡単に提示できない理由がここにあります。だからこそ、一人でも多くの生産者を増やし、台帳を作って記録を残し、そこから見えてくるものが何なのかを、シェアしたいのです。
さぁ、科学者は この「事実」をどう紐解くか。
木村さんに続く生産者がいるように、杉山教授に続く研究者や協力者が増えてくださることを、現場にいる生産者と私たちは待っています。