圃場巡回レポート<農家の知恵編2>

「木村さんも機械好きだけど、木村式に参加する人って道具や機械が好きな人多いよねぇ^^」

そうなんです。木村興農社の熊田さんも機械に詳しいですし、当会の生産者リーダーの山田理事も、新しい農業機械が出るとすぐにチェックしています。そういえば、岡山のとある地域では、「隣の家が新しいトラクターを買うと、近所の納屋もいつのまにか新しいトラクターが入っている」なんてことも聞いたことがあります(笑)

さて、Tさんの探究心に感動したのもつかの間、今度はこちらへおじゃまして、またまた感動…!

ご本人の許可を得て、顔出し登場です!
ご本人の許可を得て、顔出し登場です!

 

こちら、ベテラン農家のHさんです。木村式の取組みは2年目。自然栽培に手応えを掴んだHさんは、今年大幅に圃場面積を増やされました。成果報告会でも楽しい体験発表で会場を沸かせてくださった方です。

 

「僕ぁ、ピシっと筋が取ってねぇと嫌なんよ。イラチ(せっかち)じゃけんなぁ!」と、笑顔でお話されるHさん。最初は「怖い人なのかな…」とたじろいだのですが、巡回を重ねていくうちに、裏表のない方で、一本筋の通った気っ風のよい方であることがわかりました。

 

それは、田んぼの整え方にも反映されています。とても綺麗で合理的。合理的ということは、作業にムダがないということです。根幹をつかめないと、動きに迷いやムダが生じます。つまりHさんは、自然栽培の根幹を素早く掴み取り組まれているというわけですね。こういう方は、失敗があっても、すぐに反省材料にし軌道修正されます。

そんなHさんは、前回のTさん同様、非常に道具にこだわりをお持ちです。

この刃の形状にこだわりが!
この刃の形状にこだわりが!
刈った草もまばらに薄く畦に広げています
刈った草もまばらに薄く畦に広げています

 

「とにかく、ヒエの根っこがすげぇんよ!もう全然抜けん。でもこの刃じゃったら、よぅ取れるんよ。作業効率がよくなるよう、柄の長さにもこだわっとんで!」

 

なるほど…。ヒエは稲と同じイネ科植物。水田は稲が気持ちよく生長するくらいですから、ヒエにとってもよい環境です。稲と競合するように根深く生えてきます。水田の中ではまだ、競合する稲があるので抑制されやすいですが、畦はヒエの一人勝ち!みたいな場所もあります。

 

Hさんは、このこだわりの道具であれよあれよとヒエを根っこから取り除いていらっしゃいました。Hさんの畦の草管理は綺麗すぎず・荒れすぎず、程よいバランスで整えられています。

 

しかしこのヒエ… モンスター並みに太い根っこですねぇ^^;

「それからなぁ、コレコレ!コレ見て!!」

Hさんがおもむろに取り出したのが、板と角材の残りモノで作ったコレ。(どなたか命名してください・笑)

このアナログ感がさらに素敵
このアナログ感がさらに素敵
水の中でしゃがめる!紐の長さがキモ!
水の中でしゃがめる!紐の長さがキモ!

「水の中で草を取るのが一番しんどいじゃろ?わし、考えたんよ。コレ、すごいえかろー!(いいでしょー!)」

 

コレにはもう、その場に居合わせた人たちも大爆笑で、拍手喝采☆

「わぁ~ 何でコレ、今まで考えた人がおらんかったんじゃろう?」

「コレ、ええなぁ!」

「ほんま、ほんま。コレ、ええわぁ~」

(名前がつかないので、みんな「コレ」呼ばわりw)

 

普通、「田んぼの中に入っての草取りはしゃがめない」のが当たり前。初めからしゃがんで草を取ろうなんて考える人はなかなかいませんよね。「女房や娘が笑うんじゃけどな、わしゃぁ年も年じゃけん、体がついてこん分、頭使うようにしとんよw」とHさん。Hさんの発想の柔軟さ、本当に素晴らしいです!

 

「まだあるで!」

そういって、Hさんが軽トラから何やら持って来ました。

 

「コレも便利なんで」

ビニール袋をカットして紐をつけ、腰に巻いたら出来上がり。取った草をこの中へどんどん入れていくのだとか。Hさんのすごいところは、このビニール袋の外側を短めにカットしている点。

 

「外側を短くしたら草がスッと入るんよ」芸が細かい!

「この袋のまま捨てりゃ終わり」合理的!

「ズボンも汚れんよ」奥様想い!

「金もかからんよ」経済的!

 

あるようでなかったことを、お金もかけず、ムダなく解決するアイデア。素晴らしい!農作業を楽しんでいらしゃいます!

 

「この手鍬、農協に作らせたんよ。どこが違うかわかる?」

えー?何だろう???

 

「これなぁ、爪が4本あるじゃろう?」

あっ、普通は3本ですよね!

 

「3本じゃと、案外草が引っかからんで、あんまり意味を成さんのよ。それで、4本で作らせたんよ」

 

Hさんがおっしゃるには、この爪のピッチにもこだわって、何度か作り直してもらったそうです。

職人は自分の手足のように一体化する道具を求めるといわれますが、Hさんはまさに職人ですね。

 

これだけ合理的な思考の持ち主のHさん。ちょっと尋ねてみました。

「普通の人は、自然栽培というと『あんな面倒くさそうなモン…』とおっしゃる方が多いのに、Hさんはどうしてやろうと思われたんですか?」

 

するとHさんはこう答えられました。

「そりゃ、自然や環境にええ農業じゃって聞いたからよ。農業を専業にしてがんばっとる人が聞いたら罰当たりかも知れんけぇど、僕ぁコレ(米作り)が専業じゃねぇから、リスクを考えずに挑戦できる。やってみたら、これほど面白うて人に喜ばれるやり方はないってわかったけぇ、今年は面積を増やすことにしたんよ」・・・そこには「わしが作ってやっとるんじゃ」という上から目線はありませんでした。

笑いながら「ホイ!これどうぞ」と私たちにあらかじめ冷やしておいた缶コーヒーを手渡してくださったHさん。その気遣い、男前っぷりにニコは惚れました(笑)

 

先に収量や儲けを考えない。功名を得ようとも思わない。だからこそ、こうしたものが後からついてくる。鶏と卵のお話ではありませんが、作為的ではない言動をなさる方に、自然栽培を成功させるコツを見せて頂いているように思います。 生産者さんに配布した当会作成の手引きにある「心技を磨く」…今一度、自分に問うてみたいポイントですね。

さて、ここをご覧の皆さんはどう思われたでしょうか^^